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100分de名著 M・ミッチェル 風と共に去りぬ 第3回(運命に立ち向かう女)を観た感想とネタバレ

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毎週月曜夜10時25分~10時50分まで、Eテレで放送中の「100de名著」。2019年1月はマーガレット・ミッチェルの「風と共に去りぬ」を取り上げています。1月21日、第3回が放送されました。

100分de名著の司会は、安部みちこアナウンサーと伊集院光さんです。月に1冊、1回25分で4回に分けて一作品をその作品に詳しい方に解説をしてもらって、理解を深める番組です。

 

全然知らなかった作品でも、番組を見終わった後は読みたい!と思わせてくれます。

 

 今回取り上げられた「風と共に去りぬ」が描かれたのは、黒人奴隷制度などをめぐって1861~65年にアメリカが来たの南に分かれて戦った南北戦争の時代です。

番組では2015年に「風と共に去りぬ」の新訳を手掛けた、翻訳家の鴻巣友季子さんが現在にも通じる新たな視点で、映画を見ただけでは分からない文学的魅力を話していました。

 

 

 

今回は、第3回「運命に立ち向かう女」という題で放送されました。

物語は、南北戦争が終わり、タラにはスカーレットの父、息子。妹のスエレン、キャリーン。そしてメラニー一家。その他使用人たちと同居していました。

スカーレットはこの中でリーダー的存在ですが、北部の軍政により、重税がかけられ苦しんでいました。

そこで思い出したのはレット・バトラー。スカーレットは獄中にいるレットと結婚し、もし獄中で死んでくれたら、財産がそのまま自分のものになる。と考えます。

早速、カーテンをドレスに作り替え、優雅な暮らしをしていると見せかけ、アトランタで収監されているレットを訪問。しかし何か企んでいることを見破られ、お金を借りることは出来ませんでした。

 

そして帰り道に出会ったのが、妹スエレンの婚約者であるフランク・ケネディ。戦後開業した店が繁盛している様子。妹にはもったいないと思ったスカーレットは、妹からフランクを奪って結婚しようと決意するのでした。

 

スカーレットのボケとツッコミ

スカーレットの性格は、どちらかと言えば悪めで、強め。作中の女性たちには総スカンだが、読者には嫌われない。何故か?

鴻巣さんによると、スカーレットが嫌われない理由はミッチェルの文体あるといいます。

ミッチェルは「風と共に去りぬ」のなかで、大体スカーレットに共感しながら、突然辛辣なコメントをしたり、いかにスカーレットが意地悪であるかをすっぱ抜くような描写をします。

これを鴻巣さんは「ミッチェルのボケとツッコミ文体」と言っていました。

フランクとの出会いのシーンでいうと、妹にはもったいないと言って彼も財産も自分が手に入れようとする裏の声がボケ

彼がスエレンの婚約者であろうと、良心の呵責など全くなかった。(中略)妹の許嫁を略奪するぐらい、ささいなことにしか思えない。いまとなっては思い悩むほどでもないことだ。

という作者の視点で冷静に述べるところがツッコミ

乗せといてツッコむ。ノリツッコミのパターンの一つ。とおっしゃる鴻巣さんです。

 

それまでの19世紀の話法は、物語とは別に作者が上の立場、神様的な立場に立って、物語を説明するというスタイル。

ミッチェルが選んだのは、自らスカーレットに入り込んで物語る文体・話法。彼女の思考をなぞるやり方です。

読者はスカーレットと一体化して波乱万丈の物語を楽しめる一方、語り手のツッコミでカタルシスを得て、留飲が下げる。と詳しく説明されていました。

 

スカーレットの表と裏の声

フランクから商売の自慢話を聞かされているシーン。スカーレットの表と裏の声が交互に登場します。

 

「お店をに開いてらっしゃるの?やっぱり出来るかたは違うわ!」

「ええ、店を一つ持ってましてね。我ながらじつに気の利いた店だと思いますよ。」

「うぬぼれ屋のばかおやじめ」と心のなかで毒づいた。

「あなたなら何を手がけても成功なさるでしょう、ケネディさん。それにしても一体どうやってお店なんてひらけたのでしょう?」フランクはゴホンと咳払いをすると、顎鬚を手でいじりながら、なんだかおどおどと緊張した笑みを浮かべた。「まあ、話せば長くなるんですがね、スカーレットさん。」

よかった!これで家に着くまで話はもちそうだわ。スカーレットは心のうちでそうつぶやき、実際にはこう言った。「まあ、ぜひうかがいたいわ!」

 

龍真咲さんがこの部分を朗読されていました。鴻巣さんによると、朗読なさっていた龍真咲さんは、宝塚版の「風と共に去りぬ」に出演されていたとのこと。

宝塚では、“裏スカーレット”と“表スカーレット”を2人の役者さんでやるという演出だったそうで、龍さんは“裏スカーレット”を演じられていたというのが写真と合わせて紹介されていました。

鴻巣さんは、宝塚版ほど、ボケとツッコミ、ユーモアとアイロニー皮肉が原作の神髄に迫っている演出はないんじゃないか?と思うくらい天下一だと絶賛していました。

 

私もずっと前に宝塚版の「風と共に去りぬ」をBSで観たことがあります。その時はレットバトラーのカッコよさばかりに注目していて、演出まで深く見ていませんでした。

こうやって鴻巣さんの解説を聞いて、何も意識せずに観ていたことを後悔しました。この話を聞いてからもう一度見たいと思いました。

 

話を戻します。

伊集院さんはこの表裏の声を「落語的に感じる。」と言って、落語っぽく一人芝居で、二人が話している様子をやっていました。そして「相当能力が要る。例えば落語で言うと、右向いてこの声を出している時は隠居、左向いて声を出している時はおかみさんってやるじゃないですか。だからこれは書き分けるのは技術要るし、読み分けるのもある程度の技術が要る。」とおっしゃっていました。

その話を受けて鴻巣さんが「この話法はすごく生き生きとした効果が出せる反面、少し危険なところもある。」と言い、「地の文にも登場人物の声や視点が溶け込んでいるので、語り手の声と主張なのか、登場人物の言っていることなのか、混同する読み手が一定数どうしても出てくる。」とその危険さを解説。

スカーレットの語りを真似して書いたことも、読者には作者の考えだと読んでしまい、ミッチェルが差別主義者だという誤解を生む。ということがどうしても出てくる鴻巣さんは解説されていました。

 

確かに、映像で見ていれば、各登場人物が話し、ナレーションもいて、はっきりと分けることが出来ます。

しかし本で一緒に書かれていると、全部同じ人物が考えたことのように感じると思います。それだけ難しい表現なんですね…。

私のブログも、テレビで放送されていることを書いている部分と、自分の考えを書いてる部分と混ぜて一緒に書いているので、もしかしたら私の考えとして読まれている可能性もあるかもしれません。

分かりやすく書き分けるのは難しいです。

 

夫に嫉妬されるスカーレットの商才

スカーレットはフランクと結婚し、お金を出させてタラ農園をなんとか救いました。そしてさらに、レットから借りた資金で製材所を買収。それが大当たりしたのです。

 

鴻巣さんによると、スカーレットはビジネスの才能があり、数学脳で数字に強い。

例えば3ケタ以上の足し算も暗算で解き、その場で見積もりを出して顧客を獲得できる才があったそうです。ライバル会社がいるところに乗り込んで、「うちだったらこれでいけますけど、いかがですか?」と言って、どんどん顧客を獲得していったそうです。

 

そんなスカーレットに、夫フランクが、自分より妻の方が有能だという事に気付きます。フランクがこぼした言葉が紹介されていました。

結婚前にはスカーレットと仕事の話をするのがあんなに好きだったのに、そのぶんいまでは嫌気がさしていた。(中略)

女に頭脳があると知ってひどく幻滅するというのも、男にありがちなことだった。

 

この部分を見て伊集院さんが「今っぽい描写。今まさに問題になってるっていうか、みんなが気づき始めたところですよね。」とおっしゃっていました。

鴻巣さんは最近の言葉で「マンスプレイニング」という言葉が流行っていることを紹介。女性にものを教えたがる、説教したがる男たちっていう言葉らしいです。フランクは典型的なマンスプレイニングの方だと解説していました。

 

 スカーレットは、フランクとの間にエラという女の子を出産後、またバリバリ働きます。そしてある日、一人で馬車に乗っていた時にスラム街で男たちに襲われました。

この報復として、アシュリを隊長としたKKKがスラム街に討ち入りを計画。この情報が事前に漏れて、返り討ちにあったアシュリたちをレットが救いました。

 

鴻巣さんによると、KKKは、元々南北戦争後の再建時代に旧南軍仕官を中心に結成。黒人の暴走を抑制するために始まったという組織です。元南軍将校であったアシュリがKKKに加入したという流れは歴史的にも不思議じゃない流れなんだそうです。このKKKを描いたことでミッチェルは差別主義者だと批判されたこともあります。

しかし鴻巣さんは、作品中に何かを書くという事と、賛同することは全く別の問題。KKKについても、作品を通してスカーレットも、レットも、こういうことをするのは逆効果だと繰り返し言っている。愚かな行為であるとも言っているそうです。

討ち入りの場面は、最もシリアスな題材として扱っているが、書くタッチは一番コミカルなんだそうです。「最もシリアスにしてコミカルなパート。すごくデリケートなパート」だと力説する鴻巣さんでした。

 

ミッチェルの狙い

KKKは返り討ちにあい、現場で取り逃がしたアシュリたちを逮捕する為、憲兵隊がメラニーとスカーレットが待つ家にやって来ました。

何も知らないとしらを切るメラニー。そこへベロベロに酔っぱらって見えるアシュリと、彼を介抱するレットが一緒に帰ってきました。アシュリを逮捕するという憲兵メラニーは言います。

 

「逮捕ですって?何の罪で?酔っ払いの罪ですか?構いませんからうちの人を運びこんでちょうだい、バトラー船長―そういうあなたも歩ければの話ですけれど。」

スカーレットは怖いわ、わけが分からないわで、メラニーのほうをちらっと見てから、こんどは倒れこみそうなアシュリを見て、ようやく事情が呑みこめてきた。

分かった、今見ているこれはお芝居なんだわ。命がけで死に物狂いの芝居を打っているのよ。

 

アシュリたちを助けるために一晩中一緒に飲んでいたとアリバイを主張してくれました。憲兵隊がどこにいたかと聞くとレットは答えました。

 

「ベル・ワトリングの、その、色宿に。まあ、町の男性陣が勢ぞろいで。パーティーをやったんです。」

「ベ、ベル・ワトリングの店ですってぇ?」

メラニーの声は上ずってひっくり返り、その悲痛な声音に、みんなぎょっとして彼女を見た。

メラニーは胸元をつかむと、アーチーが支える間もなくぱたりと気絶してしまった。そこからは上の下への大騒ぎになった。

 

という部分があって、バトラーが最後に、「明日には、アトランタ中の女性がこの旦那と口をきかなくなる。」と憲兵に言って追い払いました。

 

この討ち入りの際にスカーレットの夫、フランクは頭を撃たれて死亡したそうです。

 

鴻巣さんによると、ミッチェルはこの話とは別に、フランクは穏やかに病死をするという話も書いていたそうなんですが、読み返してみると、物語が中だるみしていたので、何かを入れたい。フランクの病死だと起伏がつかない。そこで最終的にKKKの討ち入りを採用したとのこと。

鴻巣さんは、ミッチェルがここで、風刺・パロディとしてKKKを選んだのでは?と推測されていました。

伊集院さんは「ここにコント的な意思みたいなものを感じるんです。KKKを使ってる。でいて、それが襲われたかみさんの敵討ちにいくぞってなってるにも関わらず、うまくいかない。最終的な落ち着き方が酔っ払いコントで終わるっていう。KKKにすごい思い入れのある人が、かっこいいシーンを期待したとしてもかっこよくなってないんですよ。最終的にかみさんの敵討ちがすんでいない、全然。それが皮肉にもなっている。」となかなか深い読みをしていました。

 

メラニーを堪能

ここで安部アナが注目したのがメラニーの頭の良さ。度胸が据わってます。即興演技をしていました。

「何かあった時、頼れるのはメラニー。」という鴻巣さん。

続けて、スカーレットとメラニーは二人で一人のキャラクターというところがあると解説。どっちかがピンチになるとどっちかが支える補完的な間柄だと言います。

この2人にの対照的な関係は名前にも表れていることを紹介されていました。

 

スカーレット…緋色、赤のイメージ。
メラニー…語源をたどるとギリシャ語で黒い、暗いを表す、メラニアと繋がる。

 

メラニーは確かに聖女だが、非常に多面的な複雑なキャラクター。時には相手の一番痛いところをわざと突くような意地悪なところもある。と解説する鴻巣さん。そのメラニーを堪能できるシーンを紹介してくれました。

 

メラニーの家に昔から付き合いがある女性たちが集まった時。話題はやりたい放題のスカーレットの話に。

アシュリの妹、インディアはかつて恋人を取られたことがあり、スカーレットを嫌っていました。インディアはフランクの死はスカーレットのせいであること、レットと浮気をしていたはずだと吹聴したのです。それを聞いたメラニーは頬を赤らめ怒りに震えます。

 

「嫉妬に駆られて何を言うつもりです?恥を知りなさい!」

というメラニー。それでも撤回しないインディア。

「だったら、もううちでの同居は解消したほうがおたがいのためでしょうね」メラニーは言った。彼女にしては温かみのない言葉だった。

 

そしてスカーレットの製材所に息子のヒューが務めているエルシング夫人にはこう言い放ちました。

「あなたは根に持っているんでしょう。製材所を運営する才覚がないヒューを彼女が御者に降格したことを」

「メリー!」夫人たちは戦いて一斉にうめいた。

「お知らせしておきます。」メラニーは言った。「どちらさまもスカーレットのお宅に行かないという方は、わが家への訪問も金輪際ご遠慮いただきます。」

 

龍さんの朗読が終わると、伊集院さんが「このシーンはメラニーの強さもそうだけど、メラニーのスカーレットに対する愛情。もっと言うと、スカーレットに対する愛情が頂点に達すると、メラニーは怖くなる。」と感想を述べられました。

この言葉を受けて鴻巣さんは「とにかく、スカーレットを守るためだったら、命も投げ出すっていうところがありますね。だからこれは、アシュリのこと、ものすごく愛してるんですけれども、またそれとはまた違ったタイプの愛情を感じるんですね。実は恋愛小説じゃなくて、女性同士の友情を主眼してみると面白い作品。」と解説されていました。

続けて、どちらも男女両面持っているし、人間として魅力的だということがよく分かるとおっしゃっていました。

 

 

今回のお話も面白かったです。

私は映画で「風と共に去りぬ」を観た時、メラニーは、スカーレットはメラニーを恋敵として避けたり嫌がったりしてるけど、メラニーはスカーレットが好きで、頼りにしてるっていう印象を受けていました。

原作ではこんなにも強くて、スカーレットを愛していることが分かるシーンがあったんですね。もしかしたら映画でもあったのかもしれませんが、なにせ20年以上前の子どもの時に観たので、覚えていないのが残念です。

今回、メラニーがスカーレットの悪口を言う人たちからスカーレットを守るシーンを知って、感動しました。

 

強い女性のスカーレットが、おっとりした女性メラニーを世話してるとばかり思っていましたが、こんなにも深い物語だったんですね。

 

見逃した方は、再放送は同じ週の水曜昼12時からやってます。残念ながら今週は終わってしまいました。

NHKの番組は、リクエストすればもしかしたら深夜帯とかで再放送される可能性がありますので、リクエストしてみるのもいいかもしれません。

 

次回、第4回は「すれちがう愛」という副題です。

 

来週の放送も面白そうです!!

 

この番組はテキストも売ってます。↓