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100分de名著 夏目漱石スペシャル 第4回「明暗」を観た感想

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毎週月曜夜10時25分からEテレで放送中の「100分de名著」。3月は夏目漱石スペシャル。3月25日、第4回最終回で取り上げられたのは「明暗」でした。作者・夏目漱石の死により未完に終わった大作です。

今回の指南役も東京大学教授で英文学者の阿部公彦さんでした。

「明暗」は対決小説

阿部公彦さんは、「明暗」を対決小説と呼んでらっしゃいました。登場人物がバチバチと火花を散らす対決の場面が面白いとのこと。

作品を通して他者とは何だろう、コミュニケーションとは何だろうと考えるきっかけを与えられる作品なんだそうです。

 

「明暗」の冒頭部分

医者は探りを入れた後で、手術代の上から津田を下した。

「矢張穴が腸まで続いているんでした。この前探った時は、途中に瘢痕の隆起があったので、つい其所が行き留りだとばかり思って、ああ云ったんですが、今日疎通を好くする為に、其奴をがりがり搔き落して見ると、まだ奥があるんです」

津田の顔には苦笑の裡に淡く盛り上げられた失望の色が見えた。

「今までの様に穴の掃除ばかりしていては駄目なんです。それじゃ何時まで経っても肉の上りこはないから、今度は治療法を変えて根本的の手術を一思いに遣るより外に仕方がありませんね」

 

医者のすすめで手術することを決めた主人公の津田由雄。その津田には半年前に結婚したお延がいました。

一見ラブラブの様にみえる二人でしたが、津田は「どうしてあの女は彼所へ嫁に行ったのだろう。そうしてこの己は又どうしてあの女と結婚したのだろう」などと思っていました。

 

対決1 津田VSお延

「厭ね、切るなんて、怖くって。今までの様にそっとして置いたって宜かないの」

「矢張医者の方から云うとこのままじゃ危険なんだろうね」

「だけど厭だわ、貴方。もし切り損ないでもすると。

 もし手術をするとすれば、又日曜でなくっちゃ不可んでしょう」

 

日曜に二人は芝居に誘われていました。

 

「まだ席を取ってないんだから構やしないさ、断ったって」

「でもそりゃ悪いわ、貴方。切角親切にああ云って呉れるものを断っちゃ」

「悪かないよ。相当の事情があって断るんなら」

「でもあたし行きたいんですもの」

「御前は行きたければ御出な」

「だから貴方もいらっしゃいな、ね?御厭?

 嘘よ。あたし芝居なんか行かなくっても可いのよ。今のはただの甘ったれたのよ」

 

と言いつつもお延は絶対行きたいと思っていました。

 

朗読は俳優で演出家の長塚圭史さんと俳優の藤井美菜さんでした。

 

らくがき式でツッコんで楽しむ

はっきりとは書いてませんが、病気は「痔」。

阿部さんによると、このように漱石の小説にはわざと隙間があいている。なので気になるところとか変だと思うところをほじくって面白いものを引き出すと楽しめるそうです

番組では、小説に赤ペンで線を引いてツッコミを書き込んでいるのを、フリップで紹介していました。阿部さんは「らくがき式」と呼んでるとのこと。

冒頭の部分をまず「なんの病気?」「変な医者」とツッコんでいました。

こうすることで「自分で参加して文句言ったり、疑問点をたてたりしながら読んでいいってふうになると集中力が高まるし、中に入っていける。」と言う阿部さん。

 

ーー

第2回の「夢十夜」の時とは全然読み方が違いますね!!

 

www.lovetv.site

 

 

分からないまま受け入れるんじゃなくてツッコんで読む。

私にはそういう参加型の読み方の方が合ってます。なんだ、ツッコんでいいのか~!!

と思い、今回の話はグッと引き込まれました。

 

伊集院光さんがもし書き込むなら、「苦笑」というところに「何?苦笑って?そんなに重くはないのね?」って書いてると思う。とおっしゃっていました。

朗読しているのを一緒に文字を追って見てましたけど、確かに深刻な感じは受けませんでした。なんかちょっと笑いながら話してるような感じさえ受けました。もう手術するしかないけど、どうします?っていう…。軽い感じに私も受けとめました。

 

阿部さんは医者の「まだ奥があるんです」という部分に「あやしい~」と書き込んでいました。これは延々と説明しておいて結論がなく「奥があるんです」ともったいぶってる。

実は「明暗」のキーワードとして、この「」が効いてくる。

とおっしゃっていました。

この病気は「痔」だが、恋愛にも痔のようなところがある

とまで予告されていました。

なんじゃそら?

 

対決2 津田VS吉川夫人

会社を休む報告に上司の吉川の家を訪ねた津田。しかし吉川はおらず、吉川の妻が出てきました。

吉川夫人は、津田に結婚してから家に来なくなったと言って、夫婦仲がいいのかとツッコんできました。しかし津田はつれない返事をします。

 

「じゃもう嬉しい所は通り越しちまったの。嘘を仰しゃい」

「嬉しい所なんか始めからないんですから、仕方がありません」

「一体貴方はあんまり研究家だから駄目ね。あなたがその癖を已めると、もっと人好のする好い男になれるんだけれども。嘘だと思うなら、帰って貴方の奥さんに訊いて御覧遊ばせ。お延さんばかりじゃないわ、まだ外にももう一人ある筈よ、屹度。解ったでしょう、誰だか」

 

吉川家を辞した津田は夫人の言った事が気になって仕方ない様子。

 

「あの細君はことによると、まだあの事件に就いて、己に何か話をする気かも知れない。その話を実は己は聞きたくないのだ。然し又非常に聞きたいのだ」

 

津田は手術のために入院。津田には悩みがありました。

津田はお延と結婚する時に資産家だと嘘をついてしまっていて、毎月父から金銭援助を受けていました。しかし「贅沢し過ぎている」と父が援助を打ち切り、お金に困っていたのです。

そこへ、資産家に嫁ぎ自由になるお金がある津田の妹・お秀が意地悪く噂を聞きつけ見舞いに訪れました。

 

対決3 津田VSお秀

「兄さん、あたし此処に持っていますよ」

「何を」

「兄さんの入用のものを」

「そうかい」

「上げましょうか」

「ふん」

「お父さんはどうしたって下さりっこありませんよ」

「ことによると、呉れないかも知れないね」

「だからよ。あたしが持って来たって云うのよ」

「僕を焦らすためにかい、又は僕に呉れるためにかい」

「どうして兄さんはこの頃そんなに皮肉になったんでしょう。嫂さんをお貰いになる前の兄さんと、嫂さんをお貰いになった後の兄さんとは、まるで違っています。誰が見たって別の人です。兄さんは嫂さんに自由にされています。お父さんやお母さんや、私などよりも嫂さんを大事にしています」

「妹より妻を大事にするのは何処の国へ行ったって当り前だ」

「それだけなら可いんです。然し兄さんのはそれだけじゃないんです。嫂さんを大事にしていながら、まだ外にも大事にしている人があるんです」

 

あれ~??また出てきましたね。外にもって話。

 

朗読が終わって、伊集院さんは「その話を実は己は聞きたくないのだ。然し又非常に聞きたいのだ」にどっちやねん?とツッコんだとおっしゃっていました。

安部アナは女性たちがよく喋ることに注目。漱石に何か変化があって、作品も変わったのか?と質問されていました。

阿部さんは個性とか存在性がしゃべり方に出る。という考え方を漱石が持つようになったのでは?と推測。

「明暗」に出てくる女性たちは多弁だか、考えてることがすぐ分かる多弁ではない。色々言いたいことも意図もあるだろうけど、策略もあるだろうが、多弁のおかげで非常に血が通った存在として見える。と解説されていました。

伊集院さんは阿部さんの話を受けて、感情がむき出しになる事でよりドラマチックになる。と感想を述べられていました。

そこから「対決」の構図が生まれてくると言う阿部さん。

 

登場人物の整理

妻・お延

妹・お秀

上司の妻・吉川夫人

謎の女

この人たち全員と津田は対決。

番組では紹介していませんでしたが、お延とお秀、お延と吉川夫人との対決もあるそうです。

ーー

まぁ、ここまで読んでもらってても、お秀と吉川夫人がどうも津田の女性関係を知ってて、どうも身動きが取れなくなってる津田を全部お延のせいだと思ってる感じがありありと出てますもんね。

気に食わない感じが見て取れます。この部分だけでもかなり面白いです!!

 

「対決」の効果

阿部さんはこの「対決」は、一見それぞれの主張のぶつかり合いと考えがちだが、対決の中で、自分でも自分が思っていた事に気付く。相手の言葉を売り言葉に買い言葉をやってるうちに、その人の本性とか性格とか、戦略とかをどんどん引き出されていく。と分析。

読者にも発見があるし、漱石自身も発見しながら書いていたのでは?と推測されていました。

 

次に謎の女が登場します。ずっと吉川夫人の話にもお秀の話にも出てきた女性です。

謎の女の正体は清子。津田の元恋人です。

 

手術を終えた津田は温泉に療養に出かけました。しかし本当はその温泉に逗留している清子に会いに行くのが目的でした。

突然自分を捨てて他の男性と結婚した清子を忘れる事が出来ない津田。本人から真相を聞き出そうと決意したのです。

しかし津田は心の準備もないまま廊下でばったり清子に出くわし、驚かせてしまいました。

 

対決4 津田VS清子

「実はあなたを驚かした後で、済まない事をしたと思ったのです」

「じゃ止して下されば可かったのに」

「けれども知らなければ仕方がないじゃありませんか。貴方が此処に入らっしゃろうとは夢にも思い掛けなかったのですもの」

「でも私への御土産を持って、わざわざ東京から来て下すったんでしょう」

「それはそうです。けれども知らなかった事も事実です。昨夕は偶然お眼に掛かっただけです」

「そうですか知ら」

「それでは、僕が何のために貴女を廊下の隅で待ち伏せていたんです。それを話して下さい」

「そりゃ話せないわ」

「然し自分の胸にある事じゃありませんか」

「私の胸に何にもありゃしないわ」

「なければ何処からその疑いが出て来たんです」

「もし疑ぐるのが悪ければ、謝まります。そうして止します」

「だけど、もう疑ったんじゃありませんか」

「困るわね。何といってお返事したら可んでしょう」

 

朗読が終わって伊集院さんが「すごく面白い!過不足なくぎくしゃくしてる。この対決スゴイですね。」と絶賛。

清子のことを「何と言っても最後に出てくるくらいですから、一番力を込めて書いた、とっておきの女性」だと言う阿部さん。最も津田にとって手ごわい女性なんだそうです。

伊集院さんは「何のために貴女を廊下の隅で待ち伏せていたんです」という津田の言葉に注目。自分には待ち伏せる動機がない。ゆっくり会えばいい。という理屈を言ってると分析。

そのあとのやり取りで、清子を刑事のように理屈で追いつめていると言います。

そしてその次の清子の言葉。

「もし疑ぐるのが悪ければ、謝まります。」は、よく政治家が言う「もし気分を害された方が要るのならば謝ります。」という言葉と同じで、謝らない宣言をしていると分析。

そして清子は「私が疑うのは当然で悪い事ではないから、全く謝る気はございません。謝らないまま終わります。」と言ってるのだと推測していました。

伊集院さんの言葉を受けて、阿部さんは「意外と面白いのは、ふたりは同じところを指さしている。」と言い、お互い相手が何を目指して言っているかは分かってる。ただ喋るモードが違う。

津田は西洋の「ロジック」で喋ってる。清子は「感情」で喋ってる。清子は柔軟に変幻自在にその場に応じて自分にとって正直な対応をしている。どっちも嘘はついていない。しかしモードが違うので相手が嘘をついているように見えてしまう。と分析されていました。

 

漱石が描いた“コミュニケーション”

この清子と津田のやり取りを見て、伊集院さんが「コミュケーションは成立しているのか?」と阿部さんに質問。

「コミュニケーションはまさにこういう形をとるのが普通と私は思います。つまりコミュニケーションと言うと、情報を与えて受け取って…と考えがちですけど、実際起きているのは情報のやり取りのふりをして感情のすり合わせが起きてる。お互い感情的にある種の落着点を見い出す事の方が大事で、本当に重要な情報だったら、紙に書いて渡した方が正確。」と阿部さんは答えてらっしゃいました。

会話をすることで共有し、同意したことに関して同意したことに同意する。

 

といことに漱石が行き着いたのでは?ということでした。

 

ーーー

温泉宿でバッタリ会って、待ち伏せされたと疑われて腹立っている津田と、疑ったことを責められてもお土産まで買ってきといて疑うなって無理な話だろ?と思ってる清子。

今これ、文章で読んでるから分かりにくいですけど、その場にいて会話に参加していたら話しているうちに状況を共有して受け入れないなりにも違うって言うんなら同意するかってなるんだろうなと思います。

でもやっぱ、津田が言い訳してるようにしか見えませんよね~??

想いを引きずって会いにまで来てるくせに、バッタリ会ったのだけは違うねん!!疑うなら理由を話せって、逆切れしてるようにしか見えないです。

でもまぁどうであれ、この会話が面白いのだけは確かですね!慌てて騒いで逆に責めてきて、かっこ悪すぎ津田。

 

未完のままの結末は?

この小説は未完で終わってます。津田と清子が会ったあたりで終わってるそうです。

阿部さんの期待する結末は、清子とお延の対決を見たいとのこと。伊集院さんも同意して、「それ見ないと収まらない」とおっしゃってました。

「続 明暗」という水村早苗さんという人が1990年に書いた作品では、お延がお金を作って温泉までやって来る。一瞬3人で会う場面があるそうです。

阿部さんの想像では、津田が体調を崩して床に伏せってる襖の向こうで、お延と清子が対決するのを寝ている津田が聞こえたりする…。

清子とお延はそれぞれの持ち味を出して噛み合わない会話を展開。でも一瞬お延が清子の何かを見たという瞬間があったらいいな。とおっしゃっていました。

清子の奥を捉えたかなという瞬間があったら面白いと思う。とのことでした。

 

ーーー

確かに、この抜粋した内容を見ていても、清子が津田に本心を語るわけないですもんね~。妻のお延には清子をツッコむ権利があると思います。

お延が来る前に津田は、清子に別れた理由を聞きたいという本題をちゃんと切り出す事は出来たんでしょうか?

自分で理由を聞いて納得出来なければ、おそらく一生ずっと清子を引きずるような気がします。

お延が清子のことを分かっても仕方なくないですか?

 

お秀が言うように結婚したから皮肉を言うようになった、というより清子に捨てられたからなんでは?と思います。

嘘ついてまで結婚しておきながら「どうしてあの女と結婚したんだろう」はないですよね~。

さぁ、もし完結してたらそこんとこをちゃんとスッキリしてることを期待します。

 

私は、3月の夏目漱石スペシャルの中で、この「明暗」が一番面白かったです。「三四郎」に出てくる女性は思わせぶりで嫌な感じでしたけど、「明暗」の女性たちはたくさん喋ってて、こっちの方が私には好感が持てました。

未完なのでどういう終わり方なのかが分からないのは残念ですけど、自分も物語に参加してツッコんで読んでいける隙間があって面白かったです!!

欲を言うと、一回だけじゃなくて「明暗」で4週やって欲しかったです。

 

この番組にはテキストがあります。↓

夏目漱石スペシャル 「文豪」を疑う /NHK出版/日本放送協会
by カエレバ

 

「明暗」です。↓

 

明暗 改版/新潮社/夏目漱石
by カエレバ

 

 

www.lovetv.site

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